親方の部屋

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真冬のロザリオ 6

category:エチュード

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私は目を覚ました。緩かに減速する『のぞみ』の車体から伝わる微かな揺れを感じたのだろう。アナウンスが静かに流れ、銀色に冷たくたれ込めた空の下、広島の市街地へと窓の景色が変わっていく。私はいつも二人掛けのシートの通路側にすわる。窓側のシートに手をついて軽く身を乗りだし空を見上げた時、仄かに温もりを感じた。誰かが座っていただろうか、記憶がはっきりとしなかった。親しい誰かが居たような錯覚めいた曖昧な感覚にとらわれながら自分のシートに座り直して前を向いた。まだ夢から完全には覚めきってはいない私の頭に、古い、けれども忘れられない銀色の輝きをどこかで見たような、思い出せないもどかしさが滲んだ。

鳴り響くベルのなかホームに降り立った私は歩を速め、人混みを分けて歩きはじめた。
もう夢のことなど忘れていた。