親方の部屋

思いつきを色々書きます

<< 真冬のロザリオ 6 | main | 真冬のロザリオ 4 >>

真冬のロザリオ 5

category:エチュード

rps20120828_194329_393.jpg
2学期は瞬く間に過ぎて冬休みも明けたある日、それは1月の終わり頃だった。
私は学校帰りの最寄りのバス停にいた。ベンチに座り、ふんぞり返り空を見上げていた。
その横にどっかりと座ってくる男がいた、ナルミだった。
話は自然にこれからのお互いの進路についてに及び、ナルミはヤクザで出世するんだと意気込み、衿のバッジを見せた。よくよく見れば上下揃いの銀色のシルクのスーツを着込んでおり靴も高級そうだった。
私は東京に行き、自分に合いそうな仕事を探すつもりだと告げた。今日が最後の登校日だと言うとナルミはセカンドバッグから葉巻を取り出して私に手渡した。東京へ行っても喧嘩では負けるなよと言って、葉巻に火をつけてくれた。
私はふいに胸にわいた思いをナルミに確めずにはいられなかった。トシのことであった。ナルミは深く葉巻を吸い込み、やがてゆっくりと吐きながら語ってくれた。

あの赤牛での夜の後すぐにナルミとナルミの手下達でリュウを捕まえたらしい。その功績でナルミはバッジをもらったらしいが、その後のリュウのことは知らないと言った。
ただこうも言った、トシは11月に入ってすぐに自殺したと。一緒に女性の遺体もあったと。
ナルミは言った‥自分達が組から言われて行った時にはもう部屋中は教会の関係者によって片付けられていたと。ナルミの親しい刑事からの情報だと女は妊娠していたと。
リュウの帰りを信じて待ちながら、トシの子供を妊娠したミサ。
そしてミサの母親の事件についても話してくれた。
母親の情夫がミサに言い寄ったのが発端で何度目かの喧嘩の折り、酔っぱらって帰って来た男を待ち伏せて刺し殺したらしい。
私には分からなくなった。
ミサは、母親を待ちリュウを待ち、祈りながら毎日を過ごしていたのではなかったのか。少なくともあの日私にはそう思えた。
トシもまた同じではなかったか、兄を待ち、兄を待つ姉の病が治るのを待っていたのではなかったのか。
ここに至って私にはふとある思いが頭をかすめた。あの雨上がりの日、トシは私に何かを打ち明けたかったのではなかったのかと。
誰も居なくなった部屋には聖書とロザリオだけが残ったのだという。
それらは教会に預けられ、ミサの母親がもし訪れればその時渡されるだろうということらしい。
バスが遠くに見えた。ナルミが
『これで最後じゃのお。』と真っ直ぐを向いて言い、私も真っ直ぐ向いて
『うん、最後じゃの、これで。』と言った。バスに乗り込んで外を見たが、もうナルミの姿は無かった。